黒部五郎岳(3日目)
2011年 09月 02日
1日目、台風を避けるために行程を前倒しして霧雨降る雲ノ平に到着しました。
2日目、決して良い天候といえなかったので鷲羽岳は残念ながらスルーして
三俣蓮華岳を経由して黒部五郎小舎に到着したのでした。
【登山ルート】
1日目:折立 → 五光岩ベンチ → 太郎平小屋 → 薬師沢山荘 → アラスカ庭園 → 雲ノ平(設営)
2日目:雲ノ平(撤収) → 三俣山荘 → 三俣蓮華岳 → 黒部五郎小舎(小屋泊)
3日目:黒部五郎小舎 → 黒部五郎岳 → 赤木岳 → 北ノ俣岳 → 太郎平小屋 → 折立
しかし…昨日は本当に眠れず、睡眠時間は2〜3時間程度。今日は大丈夫か?
朝食を食べに自炊室まで下ってスープを作り、談話室でパンと一緒に食べます。
バーナー類を片付けに自炊室へ戻ると例の韓国のリーダーに会いました。
「おはようございます」と声を掛け合います。大きな鍋で3人分をまとめて作るようです。
自炊室を出ようとすると「すいません」と更に声をかけられました。
「バーナーのガスが無くなりそうなのです。それを譲ってもらえませんか?」とのこと。
え…と一瞬考えました。これは新品のガス缶だし…もしも今日、何かの都合でテント泊を
することにもなれば火器は必要だし…と、ついつい"面倒回避"の悪いクセが…。
「いや、これはまだ使うので…」と答えると、「お金も払います!」と困っている様子。
妻の顔を見ると「譲ってあげれば」と言うので、ええい!という感じで差し上げました。
その時、ここまでの2日間なんとなく接しないようにしてきた事が馬鹿らしく思えました。
(それは外国の人だからというわけではなく僕は声の大きい人があまり得意ではないのです)
せっかくなので僕から色々質問してみました。すると一気にいろんな事がわかりました。
このリーダーさんは韓国の山岳雑誌『人と山』など、いくつかの媒体で連載を持っている
ライターさんだということ。日本の百名山が好きですでに82座(!!)も登っているということ。
あの田部井さん(僕ら夫婦の憧れの人)と知り合いで近く一緒に山を登るということ、など…。
少し話してみると興味を惹かれる要素が満載なのですが、そろそろ出発せねばならいので
今日もなんとなく方向は同じということを確認して別れました。
部屋に戻っても「82座登ったとは…あの人、すごいね」なんて話をしてしまうほど(笑)。
「無事でした?」と聞くと多少寝不足の目をしながらも「あれくらいは想定していました」
と元気に答えました(ちなみに、この青アークさんは声も雰囲気も大人しいです)。
良かったですね〜なんて笑い合って「またどこかでお会いしましょう」と別れました。
4:30、まだ少し暗い中登り始めます。いきなり黒部五郎岳を通るわけですが
"稜線歩きルート"と"カール見ながら歩きルート"があり台風もあるので二人で悩みました。
しかし「せっかくなので百名山の一つ、黒部五郎岳ぐらいは登っておこう」という
結論になったのですが、これがなかなかのイバラの道だったのです。
想像していたよりも遥かに良い天気!今までずっと雨だったので感動です。
しかも風も別段強いわけではなく、とっても気持ちの良い天候です。
とはいえ、このあたりではまだ晴れてくれた感動のほうが遥かに強いです。
このあたりは本当に風が強かった!慎重に歩いている分にはまだ大丈夫なのですが、
足を出した瞬間にゴオオッ!と突風が吹くと吹き飛ばされそうになります。
この3日間で一番気を使って慎重に歩きました。一瞬、稜線ルートを後悔したほど…。
この強風は台風の影響なのか、もともとこのあたりは風が強いのか、判断つきません。
僕らより確実に後に出た(おそらく30分ほど)はずなのになぜ?と考えたところ、
どうやら一般的にはカールルートで黒部五郎岳の先まで行き、少し戻ってくるのが
なだらかで好まれるコースのようなのです。事実、他にも同じ小屋に泊まってた人が一人
そのルートで登っていくのを後で見ました。稜線コースなんて通らないのです!
7:10、緊張で体を強ばらせながらも黒部五郎岳に登頂!
すると韓国のリーダーがすごい!すごい!と親指を立ててくれました。
今朝話をして距離が近づいているので素直に喜びを分かち合えました。
このあと、妻と交代で看板と一緒の写真を撮ったのですが、とてもじゃないけど
立ってなんていられませんでした。超強力な風が頂上に吹き荒れているのです。
行く方向が一緒なので抜きつ抜かれつですが、端から見たら同じグループです。
しかし、ここらへんの登山道は開けていて最高でした。素晴らしい開放感。
リーダーは飛び抜けて健脚でかなり先を行っているのです。さすが82座!
くどいようですが本当に素敵な登山道です。こんな道を延々と歩きたいなぁ。
日本海!今までは雨だったので全然気づきませんでしたが、こんなに近くにとは。
「帰ったら二人の写真を送りますね」と言って名刺ももらいました。
似顔絵付きの名刺で、"Mountain TV専属出演"とも書いてあります。
後日、メールしたところ数枚の写真を送ってくれました。
(彼は山で僕らのことをたまに撮っていたので、その写真でした)
写真撮影 Woo Jea Boong
その中の一枚がこれ。
北ノ俣岳で名刺をもらって「じゃ、お先に!」と言った時の僕らです(笑)。
Wooさん、ありがとうございました!…って読んでないだろうけど。
腹も減ったので早くあそこで何か食べたいです。今日はカレーにしよう。
平坦な道に近いので危険はありませんが、何度か横に吹っ飛ばされそうになりました。
しかも、ここへきて僕の体が動かなくなってきてしまったのです。
寝不足のせい?空腹のせい?黒部五郎岳を登った疲れのせい?など理由を考えたのですが
後で調べた感じではシャリバテだったのだと思います。
体力的には余裕があるのになぜか体に力が入らない、そんな感じでした。
11:20、小屋に到着。韓国グループは先に到着していましたが、お客はほとんどいません。
僕はカレーライス、妻はラーメンを頼んで腹ごしらえ。ゆっくりと休憩したかったのですが
台風が来ているのでなるべく早く下りるべきだ、という妻の主張にしたがうことにします。
カレーを食べている間に韓国グループの姿が小屋の外に見えました。
朝聞いたルートでは太郎平小屋から薬師岳にピストンしてきて太郎平小屋で宿泊とのこと。
この強風の中、稜線を進もうと言うのだから少し心配ですが、
彼らはかなりの健脚だし体力も僕より遥かにあるので、きっと大丈夫でしょう。
3日間一緒に歩いて彼らの凄さを実感したのです。百名山制覇の意気込みは相当なものです。
彼らの背に向け、「お気をつけて」と心のなかで言って、小屋を出る準備をしました。
なんでも二日前に雲ノ平に一緒に泊まっていたというのです。「MSRハバハバです」と聞いて
「ああ!いましたね」とすぐにかわりました(5張りほどしかなかったのですから)。
ものすごい重そうなザックを背負っているカップルと少し話をして別れました。
やはり、こうやって人数が少ないと顔も覚えてくるので自然と仲良くなれますね〜。
カレーも腹いっぱいに食べたのでシャリバテも解消したか!?にみえたのですが
30分ほど歩くとまた体が動かなくなってしまいました。
今度のやつは本気で"今までにこれほど体が動かなくなったことはない"というほど
僕の体は力を出してくれませんでした。ストックに寄りかかって下りるしかありません。
パワーバー、ご存知でしょうか?登山用品店にはたいがい置いてある、アレです。
実は過去に1回飲んだことがありますが、噂通り不味くそれほど効果は感じませんでした。
しかし「ここで飲まずしていつ飲む!」と休憩の時に飲んでみました。
ヘロへロと15分くらい歩いた頃、急激に力がみなぎるのを感じました!
思わず「おおっ!」とニヤけてしまうほど。一気に回復したのです。
それまでちょっと先を歩いていた妻を一瞬で抜き去るほど元気になれました。
例えるならば、完全にスーパーマリオでスターを取った時の状態です。
やったー!嬉しい!このまま下山だ〜!とハイスピードで下ります。
確かに「これが切れたら反動ですごく疲れるのでは?」と少し心配していましたが
あまりに調子に乗ったのでその反動は尋常ではありませんでした。
パワーバーを飲む前より完全に力が出ません。な、なんだこれは〜!
気分の悪さすら感じてくる始末。妻は気遣ってこちらを確認したりしていますが、
その期待に答えることなど到底できなさそうなほどの、疲労こんぱいぶりでした。
「先に車を取ってきてあげる」と言って先にいきました。
なんとも情けない気持ちになりつつも、初めての状態にビックリしていました。
体力は残っているのにギアとギアが咬み合ってない感じというか…。
モーターを回しても空回りみたいな。
14:30、無事に折立登山口に到着。同時に妻が車を登山口によせてくれました。
いや〜助かった!とヘロヘロ状態で助手席に乗り込みます。
その後は近くの温泉で汗を流し、SAで定食を食べて帰ったのですが
温泉から先は普通に僕が運転して帰りました。けっこう元気でした。
今回の黒部五郎岳2泊3日、天気は少々悪かったのですがいろいろと得るものがありました。
山はそういうところが面白いですね。1つの山行で得た知識や経験を次の山行で活かす。
それは要はRPGで言うところのレベルアップをしているということで。
人が少ないこともあって、人との出会いもとても楽しめました。
そして、"行動食を摂ることは大事"ということを、今更痛感した山行となりました。
by yama-oson
| 2011-09-02 20:39
| 山行 (北アルプス)